ネルンストの式

ネルンストの式: Nernst equation)とは、電気化学において、電池電極電位 E を記述した式である。1889年ヴァルター・ネルンストによって提出されたとされるが、実際にネルンストが提出した式や考え方は、現在知られているものとは異なる。現在、広く受け入れられている式は、化学ポテンシャルの考え方に基づいて導出される。

酸化還元反応におけるネルンストの式

以下の式で示されるような酸化体Oxと還元体Redの間の電子授受平衡反応を考える。

Ox + z   e Red {\displaystyle {\ce {{Ox}+{\mathit {z}}~e^{-}<=>Red}}}

このとき、系に挿入された不活性電極の持つ電位(電極電位)Eは、平衡時には以下の式で記述され、これを酸化還元反応におけるネルンストの式という。

E = E + R T z F ln a O x a R e d {\displaystyle E=E^{\circ }+{\frac {RT}{zF}}\ln {\frac {a_{\mathrm {Ox} }}{a_{\mathrm {Red} }}}}


なお、25 ℃ (298 K) においては、以下のように換算され、これも広く用いられる。

E = E + 0.0592   V z log 10 a O x a R e d {\displaystyle E=E^{\circ }+{\frac {0.0592\ \mathrm {V} }{z}}\log _{10}{\frac {a_{\mathrm {Ox} }}{a_{\mathrm {Red} }}}}

電気生理学におけるネルンストの式

イオンXに対して透過性がある膜を隔てて、片側の区画(o)でのイオンXの濃度が[X]o、他方の区画(i)での濃度が[X]iであるとする。イオンXは濃度勾配にしたがって膜を透過するが、それによって生じる電荷の移動により、膜を隔てて電位差が生じる。平衡に達したときの区画oに対する区画iの電位Eは、以下の式で記述され、これを電気生理学におけるネルンストの式という。

E = R T z F ln [ X ] o [ X ] i {\displaystyle E={\frac {RT}{zF}}\ln {\frac {[{\mathrm {X} }]_{\mathrm {o} }}{[{\mathrm {X} }]_{\mathrm {i} }}}}

平衡電位を境にしてイオンの流れる方向が逆になるので逆転電位(reversal potential)とも呼ばれる。↵なお、体内では主に、ナトリウムイオン、カリウムイオン、クロライドイオンが関わっているので、37℃(体温)において平衡電位をmVであらわすと、以下のように換算され、これも広く用いられる。

E = 61.5 log 10 [ X ] o [ X ] i {\displaystyle E=61.5\log _{10}{\frac {[X]_{\rm {o}}}{[X]_{\rm {i}}}}}

参考文献

  • P. A. Atkins; J. de Paula 著、千原秀昭、中村亘男 訳『物理化学(上)』(8版)東京化学同人、2009年。ISBN 9784807906956。 

関連項目