ユーリ古細菌

ユーリ古細菌
Thermococcus gammatolerans
分類
ドメイン : 古細菌 Archaea
: ユーリ古細菌
Euryarchaeota
学名
"Euryarchaeota"
Woese, Kandler & Wheelis, 1990
下位分類(門)

ユーリ古細菌(ユーリこさいきん、ユリアーキオータEuryarchaeota)は、メタン生成菌高度好塩菌を中心とした古細菌の系統である。この他にも超好熱菌や好熱好酸菌、硫酸還元菌、嫌気的メタン酸化菌など多様な生物がおり、既知の古細菌種の8割以上が含まれる。種ベースで原核生物の3%程度を占める。

1984年にレイクが古細菌界として定義したものである[1]1990年カール・ウーズが16SrRNA配列に従いユーリ古細菌界として再定義した[2]。他の古細菌群とは基本的に16S rRNA系統解析によって区別されており、形態・細胞表層構造、代謝系は非常に多様である。幅広い極限環境に適応していることから、ギリシャ語のευρυς(ラテン文字:eurys;エウリュス、意味:広い)にちなんで命名された。

長くユーリ古細菌門として位置づけられていたが、2021年から2023年にかけ、メタノバクテリウム門(Methanobacteraeota)、テルモプラズマ門(Thermoproteota)、ハロバクテリウム門(Halobacteriota)が記載された。スーパーグループとしては、この3門に加え、Hadarchaeotaや場合によってはDPANN群を含んでいる。

特徴

元々16S rRNA系統解析により定義された界であり、共通する性質は乏しい。クレン古細菌との比較では、やや細菌寄りの細胞骨格細胞分裂機構を持っている。ESCRT複合体の代わりにZリング関連タンパク質(FtsZMin[要曖昧さ回避]など)があり、MreBを持つものも多い。転写関連遺伝子(RpoG、Rpc34、Elf1)やリボソームタンパク質(S25e、S30e、L13e、L38e)のいくつかを保有しないことも特徴である。

メタン生成菌の系統が多く、主要9綱のうち5綱がメタン生成菌のみから構成され、1綱がメタン生成菌を1部含み、1綱が生成メタン菌ではないもののメタン生成経路を備えている。高度好塩菌メタノミクロビウム綱の姉妹群とされる。記載されているメタン生成菌は全てこのユーリ古細菌に含まれる。

分類

  • ユーリ古細菌/Euryarchaeota(界または上門)
    • メタノバクテリウム門/Methanobacteraeota
      • メタノバクテリウム綱/Methanobacteria
        • メタノバクテリウム目/Methanobacteriales
          • メタノバクテリウム科/Methanobacteriaceae - メタン生成菌。淡水系や動物の消化器官から分離例が多い。
          • メタノテルムス科/Methanothermaceae - メタン生成菌。超好熱性。
      • メタノコックス綱/Methanococci
        • メタノコックス目/Methanococcales - メタン生成菌。海洋性。
          • メタノカルドコックス科/Methanocaldococcaceae - メタン生成菌。超好熱性。
          • メタノコックス科/Methanococcaceae - メタン生成菌。海洋性。
      • メタノピュルス綱/Methanopyri - メタン生成菌。超好熱性。
      • テルモコックス綱/Thermococci - 海洋性の超好熱菌。
        • テルモコックス目/Thermococcales
          • テルモコックス科/Thermococcaceae
    • テルモプラズマ門/Thermoproteota
    • ハロバクテリウム門/Halobacteriota
      • アルカエオグロブス綱/Archaeoglobi - 硫酸、酸化鉄などを還元する嫌気性の超好熱菌。海洋熱水鉱床、油田などからの分離例が多い。
        • アルカエオグロブス目/Archaeoglobales
          • アルカエオグロブス科/Archaeoglobaceae
      • ハロバクテリウム綱/Halobacteria - 塩湖、塩田など好塩環境から分離される好気従属栄養生物。
        • ハロバクテリウム目/Halobacteriales
          • ハロバクテリウム科/Halobacteriaceae
          • ハロアルクラ科/Haloarculaceae
          • ハロコックス科/Halococcaceae
        • ハロフェラクス目/Haloferacales
          • ハロフェラクス科/Haloferacaceae
          • ハロルブルム科/Halorubraceae
        • ナトリアルバ目/Natrialbales
          • ナトリアルバ科/Natrialbaceae
      • メタノミクロビウム綱”/“Methanomicrobia” - メタン生成菌。淡水系や動物の消化器官から分離例が多い。
        • メタノミクロビウム目/Methanomicrobiales
          • メタノコルプスクルム科/Methanocorpusculaceae
          • メタノミクロビウム科/Methanomicrobiaceae
          • メタノスピリルム科/Methanospirillaceae
          • メタノレグラ科/Methanoregulaceae
        • メタノサルキナ目/Methanosarcinales
          • メタノサエタ科/Methanosaetaceae
          • メタノサルキナ科/Methanosarcinaceae
          • メテルミコックス科/Methermicoccaceae
        • メタノケッラ目/Methanocellales
          • メタノケッラ科/Methanocellaceae
        • ANME I-III - 嫌気性メタン酸化古細菌
      • メタノナトロナルカエウム綱/Methanonatronarchaeia

この他にも多くの未培養系統が残されている。

特徴

  • アルカエオグロブス綱/Archaeoglobi - 海洋熱水鉱床、油田などから分離される嫌気性の超好熱菌。硫酸還元菌であるArchaeoglobus、鉄を酸化するFerroglobus第二鉄を還元するGeoglobusの3属がある。
  • テルモプラズマ綱/Thermoplasmata - ユーリ古細菌の中では唯一ヒストンを欠く。
    • テルモプラズマ目/Thermoplasmatales - 陸上の硫気孔、温泉など。クレン古細菌のスルフォロバス目と同じく好熱好酸菌だが、それよりも低pHに適応し(好熱性は低い)、大半の種はpH1以下でも増殖できる。Picrophilusを除いて細胞壁を欠損する。偏性好気性の従属栄養生物が多い。
    • メタノマッシリイコックス目/Methanomassiliicoccales - メタン菌。外膜を持つ。2018年現在Methanomassiliicoccus luminyensisのみが記載。この種はヒト大腸内でメチルアミンを分解していると考えられる。
  • テルモコックス綱/Thermococci - 有機物を発酵する嫌気性の従属栄養生物で、海洋熱水系に広くみられる。全種が超好熱性。Pyrococcus furiosusは研究の進んでいる古細菌種である。
  • メタノバクテリウム綱/Methanobacteria - 動物消化器官熱水泉下水湖沼、その他広い淡水系に分布するメタン菌。人体からもMethanobrevibacterが比較的よく検出される。細胞壁にシュードムレインという構造を持つ。
  • メタノコックス綱/Methanococci - 海底熱水鉱床や海底沈殿物など主に海洋系に分布するメタン菌Methanocaldococcus jannaschiiは最初にゲノムが解析された古細菌である。主に水素+二酸化炭素系でメタンを生成する。
  • "メタノミクロビウム綱"/"Methanomicrobia" - 主に水田湖沼シロアリ反芻動物消化器官などに分布するクラスII メタン菌。酢酸を利用する種が多いが代謝形態は多様性に富む。
    • メタノミクロビウム目/Methanomicrobiales - 水素+二酸化炭素系のほかに、ギ酸、アルコール+二酸化炭素系でメタンを生成する。
    • メタノサルキナ目/Methanosarcinales - 酢酸をメタン生成の基質に用いることのできる種が多く、硫化ジメチルを利用できる種もいる。バイオガスの生産にMethanosaetaMethanosarcinaが重要。
    • メタノケッラ目/Methanocellales - 以前Rice Claster Iと呼ばれていたもの。水田や湖水、泥炭地に生息するメタン菌。
  • メタノピュルス綱/Methanopyri - 超好熱性のメタン菌。Methanopyrus kandleri1種のみが分離されている。生物の生育限界温度である122℃で増殖するStrain 116を含む。細胞壁はメタノバクテリウム綱と同様シュードムレインであるが、その外側を更にS層が覆う。
  • メタノナトロナルカエウム綱/Methanonatronarchaeia - シベリアの超塩水ソーダ湖の嫌気性沈殿物より分離された、好塩・好アルカリ・好熱性のメタン菌Methanonatronarchaeum thermophilum1種のみ。
  • ハロバクテリウム綱/Halobacteria - いわゆる高度好塩菌。2018年現在約250種を含み、記載されている古細菌の約半数を占める。好気従属栄養性で、バクテリオロドプシンにより光エネルギーも利用する。
    • ハロバクテリウム目/Halobacteriales - よく研究された古細菌であるHalobacterium salinarum NRC-1などを含む。
    • ハロフェラクス目/Haloferacales
    • ナトリアルバ目/Natrialbales - 比較的好アルカリ性の高度好塩菌が多い[4]

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ ここで言う古細菌界は、現在でいうクレン古細菌などを含んでいない。クレン古細菌はエオサイト界として独立の界が与えられ、真核生物の祖先として想定する(エオサイト説)。一方、古細菌界(ユーリ古細菌)は細菌の祖先に位置付けられていた
  2. ^ Woese 1990.
  3. ^ Frigaard, N. U., et al. (2006). “Proteorhodopsin lateral gene transfer between marine planktonic Bacteria and Archaea”. Nature 439 (7078): 847-50. doi:10.1038/nature04435. PMID 16482157. 
  4. ^ Gupta, R. S., et al. (2015). “Phylogenomic analyses and molecular signatures for the class Halobacteria and its two major clades: a proposal for division of the class Halobacteria into an emended order Halobacteriales and two new orders, Haloferacales ord. nov. and Natrialbales ord. nov., containing the novel families Haloferacaceae fam. nov. and Natrialbaceae fam. nov.”. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 65: 1050-69. doi:10.1099/ijs.0.070136-0. PMID 25428416. 

参考文献

  • Woese, CR; Kandler O, Wheelis ML (1990). “Towards a natural system of organisms: proposal for the domains Archaea, Bacteria, and Eucarya”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 4576–4579. PMID 2112744.