放置座礁外国船
放置座礁外国船(ほうちざしょうがいこくせん)は、沿岸で座礁したまま放置された外国船で、船主側の撤去拒否や行方不明等で処理の見込みが立たない船のこと。
放置される原因
座礁した船の撤去には、多額の費用を要することとなるが、船主の財政難、船主責任保険(PI保険)未加入により費用が捻出できず、撤去が不能となるケースが多い[1]。サブスタンダード船は、PI保険未加入である比率が高い。船舶油濁損害賠償保障法が適用された後、日本に入港するためにはPI保険の加入が必要となった。
サブスタンダード船は、日本の港湾への入港が不可能と見られたが、内容に問題があるPI保険に加入して日本に入港するようになった。保険の質に問題があるかどうかは、船舶が座礁するまで証明されない問題もある。2007年4月17日に、宮城県亘理郡山元町の太平洋沖で座礁したセントビンセント・グレナディーン船籍の貨物船「JANE号」が良い例である。第二管区海上保安本部は、改正海洋汚染防止法を全国で初めて適用したが、速やかに撤去されなかった。
海外売船されて外国船籍船として、日本から出港する多くの元内航船は、経費を抑えるために検査が簡単、又は殆ど検査を行わなくても登録が出来る国家に登録される便宜置籍船として登録される。問題のある便宜置籍船国は、自国に登録される船舶が、国際条約を順守する監視・監督を怠り、責任を負わない。
ポートステートコントロール(PSC:外国船舶監督官)の検査が簡単だったり、検査に来なかったりするので、問題があるにもかかわらずサブスタンダード船の状態で出港できる事例がある。問題がある状態のサブスタンダード船である確率が非常に高いので、出港後に海難事故(座礁)を起こす。経費削減の一環でPI保険に加入しない事例があった。結果として、改正船舶油濁損害賠償保障法以前に放置された、全ての外国船籍船はPI保険未加入であった[2]。
座礁船の一覧
海外売船されて外国籍船舶になり日本から出港した船舶が座礁し放置されるケースも多い。改正船舶油濁損害賠償保障法後、売船されたベリーズ船籍浚渫船「豊栄」が平成22年12月23日に宮崎市折生迫で座礁し放置されている[3]。
主な放置外国船籍座礁船[2]
船籍 | 船名 | 座礁場所 | 座礁年月日 | 撤去 | PI保険 |
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パナマ | TATONG | 沖縄県浦添市 | 1986年8月26日 | No | 無 |
インドネシア | NATRASEAS1 | 鹿児島県喜界島 | 1992年2月12日 | Yes | 無 |
パナマ | NUGGETS No.7 | 鹿児島県種子島中種子町 | 1993年5月3日 | Yes | 無 |
ベリーズ | 長生3号 | 大分県南海部郡蒲江町深島 | 1994年8月2日 | No | 無 |
ベリーズ | OCEAN BRAVE | 鹿児島県大島郡瀬戸内町 | 1996年8月13日 | No | 無 |
ホンジュラス | DAISEN-300 | 鹿児島県喜界島 | 2000年12月12日 | Yes | 無 |
ホンジュラス | NOJIMA No.2 | 鹿児島県南大隅町佐多岬浮津鼻付近 | 2000年12月25日 | Yes | 無 |
ホンジュラス | MD-511 | 鹿児島県南大隅町佐多岬浮津鼻付近 | 2000年12月25日 | Yes | 無 |
朝鮮民主主義人民共和国 | CHONG LYU 2 | 山口県豊北角島 | 2001年10月6日 | Yes | 無 |
朝鮮民主主義人民共和国 | チルソン号 | 茨城県日立市日立港 | 2002年12月5日 | Yes | 無 |
ホンジュラス | キンユウ | 宮崎県宮崎市一ツ葉海岸 | 2003年10月7日 | Yes | 無 |
セントビンセント ・グレナディーン | JANE | 宮城県山元町沖 | 2007年4月17日 | Yes | 無 |
カンボジア | DERBENT[4] | 北海道利尻島 | 2008年1月1日 | Yes | 無 |
ベリーズ | 豊栄 | 宮崎県折生迫 | 2010年10月24日 | No | 無 |
モンゴル | TJ88 | 沖縄県伊良部島 | 2013年1月14日 | No | 無 |
カンボジア | AN FENG 8[5] | 青森県深浦町 | 2013年5月1日 | Yes | 無 |
問題点
- 燃料を搭載した船では、燃料である重油の流出事故を招くことがある。
- 漁業への被害や補償問題を招く。
- 誰も撤去しない場合、最終的には漂着先の都道府県が費用を負担し、解体することとなる。
- 改正船舶油濁損害賠償保障法で、外国船籍船にPI保険への加入が要求されるようになったが、実効性の問題がある。結果として船舶撤去や漁業被害等の問題が放置される[6]。
解決方法又は予防策
PSCが問題がある船舶に対して厳しく検査を行い、問題があれば出港停止命令を出す。ISMコードに関してもPSCが厳しいチェックを行い、船員の教育や質を改善する。問題のあるサブスタンダード船が日本の港に簡単に再入港できないようになる(現状は、サブスタンダード船であってもPSCに不備を指摘されないケースがあるので問題の解決にはなっていない)。改正船舶油濁損害賠償保障法で要求される、保障契約証明書の発行プロセスに不備があるので、改善する必要がある[7][8]。
国土交通省は放置座礁船対策について対応しているが[9]、サブスタンダード船の取締りが、放置座礁船対策に繋がるとは考えていないようである。国土交通省が公開している放置座礁船の多くは、日本船籍の航船が外売されて税関の輸出許可を受けてから、出港直後に日本の領海内で座礁している[8]。
ギャラリー
- イタリアのCastiglioncelloで座礁した貨物船 VENUS号 (IMO: 7028207)
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脚注・出典
注釈
出典
- ^ なぜ撤去は進まない?乗り揚げ放置の外国船 海洋政策研究財団
- ^ a b 放置座礁船問題への取組み(運輸政策研究機構ホームページ)
- ^ “「国にも撤去責任」 座礁船放置で宮崎市漁協が損賠提訴”. 宮崎日日新聞. (2013年10月25日). https://www.the-miyanichi.co.jp/kennai/_2142.html
- ^ 利尻島沼浦海岸における無国籍船座礁事故に係る報告 2008年1月1日 海と渚環境美化・油濁対策機構 (PDF)
- ^ “座礁貨物船撤去されず 青森・深浦の海岸放置9ヵ月”. 河北新報. (2013年12月16日). http://www.kahoku.co.jp/news/2013/12/20131216t23022.htm
- ^ 関門海峡における船骸撤去関門支部長 山本 徳行 (全日本船舶職員協会ホームページ)
- ^ 外航船舶へのPI保険加入義務付けについて (国土交通省ホームページ)
- ^ a b 衆議院会議録情報 第180回国会 国土交通委員会 第11号 平成24年7月25日 国会会議録検索システム
- ^ 放置座礁外国船に対する対応 国土交通省
関連項目
- バンカー条約
- 船籍
- 船級協会
- 海上における人命の安全のための国際条約
- マルポール条約
- ニューカリッサ号(英語版) - オレゴン州で1999年に座礁して、2008年まで放置されていた、日本郵船系の船会社が運航していたパナマ船籍船。
外部リンク
- 放置座礁船問題への取組み(運輸政策研究機構ホームページ)
- 放置座礁外国船の状況(pdfファイル 国土交通省ホームページより)
- 七管内における放置外国船(海上保安庁のHPより)
- 放置座礁船対策の基本的方向について(国土交通省ホームページより)
- 放置座礁船対策の推進(pdfファイル 国土交通省ホームページより)
- 角島における北朝鮮籍貨物船座礁事故に関わる報告(財団法人 漁場油濁被害救済基金のHPより)
- 外航船舶へのPI保険加入義務付けについて (国土交通省ホームページ)
- 外航船舶へのPI保険加入義務付けについて (国土交通省ホームページ)